歯型の石膏模型

10年前、和歌山県で歯科助手をしていた頃の出来事である。
ある朝、診察が始まった時、スーツ姿の二人の男性が来院した。警察官だった。ある港に沈んだ車が引き上げられ身元不明の遺体が見つかったことが告げられ身元確認だった。他の患者さんに聞かれてはいけないのでメモをとりドクターに見せた。ドクターは慌てて警察官に詳しい話しを聞いたり、写真を見せらていた。警察官に亡くなられていた方の名前の方を伺っていたので私は20年以上分の保管されているカルテを棚から探した。該当するカルテが出てきたので内容を確認して歯型をとっていたことも分かった。ドクターに伝え、歯型の石膏模型を探した。【当時勤めていた歯科医院は技工室が広く開業してからすべての患者さんの歯型の石膏模型を保管していた。】3個見つかった。歯の一部を撮ったレントゲンもカルテに付いていた。ドクターは検視をしたいと警察官に申し出たが「県で決められている〇〇先生が警察歯科医なので検視ができない」と言われた。警察官にカルテと歯型の石膏模型を預けた。それから一週間後、歯型の石膏模型は返された。捜査協力として大きな袋に入った箱詰めのお菓子が渡された。ドクターは受け取るのを拒否したが捜査費から出ていると言われ受け取った。私は身元確認ができた患者さんのカルテと歯型の石膏模型を元の場所に戻した。こうしたかたちの患者さんとの最後のかかわりかたもあることを経験した。歯型の石膏模型をみるたびに当時を思い出す。
 

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